講演会(ご案内・ご報告)

第10回講演会

プログラム3
「癌患者の立場から、身を守るその発見法と対策」
財団法人博慈会老人病研究所 所長
福生 吉裕先生


 皆さんこんにちは。私は現在ある老人病研究所付属病院にて、「もの忘れ外来」を行っており主に高齢者の方の医療をさせて頂いております。 しかし30年ぐらい前になりますが日本医科大学の微生物免疫学教室に身を置き少し免疫の勉強させて頂きました。 高橋先生とは同じ釜の飯を食べた同門の間柄でもあります。そんなわけで丸山ワクチンには縁がありまして、今日は丸山ワクチンについて肩の凝らないようなお話をさせていただきたいと思います。


1.日本人の死因

図1

 図1は、厚労省の(2010年の)人口動態統計です。癌が右肩上がりに上がって現在癌死は総計で35万人、1年間で亡くなる人の3人に1人は癌で、2人に1人が癌になるという段階です。

図2

 昨年も田中好子さん、アタックチャンスの児玉清さん、それにあの談志さんまでもがお亡くなりになりました。談志が死んだ……右から読んでも左から読んでも「だんしがしんだ」、本当に笑いを与えてくれる名人でした(苦笑)。こんな方がと思われる方もやっぱり癌で亡くなるということです。癌は本当に例外なく平等に「誰でもなる」ということですね。私が勤めている療養型介護病棟では入院される方はほとんどが寝たきりの方です。そして認知症か癌を併発されておられます。そしてやがて最後は感染症の肺炎となります。自分に当てはめた場合、いつか何かで死ぬのでしたら癌がいいか認知症がいいかどちらを選ぶかは本当に難しいところだと思います。
 では、我々はなぜ癌になるのでしょうか。これには多説ありますが発生説として受け入れられているのに複製エラー説があります。これは私たちの身体には約60兆個の細胞があります。そのうちの約2%、1兆2,000億の細胞が一日に新陳代謝をして死滅、再生を繰り返しております。こうして命が繫がって行くのです。朝起きて目が覚める、「ああ生きているな」と感じます。この一兆2000億個の細胞が身代わりになって先に死んでいってくれたからです(笑)。このようにして分裂により細胞のコピーが連続されてできるのですけれども何年もの間にはそのコピーに摩滅が生じ、傷がついていく。この積み重ねが老化という現象です。そしてこの出来た傷あり劣化細胞は免疫力でそのつど破棄されるか修復されているのですけれども、加齢による老化が進むと免疫力の低下が生じ、見逃され、修復できない遺伝子の集積が生じてきます。癌細胞になっていくものが少しずつ出来てきます。まさしく「癌は1日してならず」です。どれくらいのタイムスパンかと言いますと、癌細胞が分裂をして、1個から10個、そして100個、1,000個となり、約1グラムになるのに約20年かかると言われています。一見気の長い話しのように思えます。これだけ時間があるのならこの期間中に簡単に気づき発見できるのではと思いがちですが、実際にはそうは行かないのが常です。ついつい見逃されてしまうケースが多いのは確かです。ほとんどの場合直径が2cmぐらいに相当大きくならないと痛みとして感じないからです。誰でも歳をとるわけですから例外なく「誰でも癌になるチャンスはあると」ということでもう少し敏感になっていいと思います。逆にそれだけの対策を練る期間も与えられているということを覚えて置いて頂きたいです。
 またさらに現在私たちが生きている世の中には、癌のイニシエーターといいますが、放射線、紫外線、B型ウイルス、それからたばこのタール、車の排気ガス、かびとか焦げなど我々の遺伝子を傷つけるものがたくさんそこいらにあります。それから増悪因子としてはアスベストとかストレス、加工食品、インスタント食品ばかりの偏食、多量の肉食、こういったものが癌促進因子となります。誰でも癌になるチャンスに満ち満いているということですね。



2.Dr.福生の癌体験記

図3

 この写真(図3)はどこかで見た人ですね。そうですDR福生です(笑)。病室での写真です。着物の裾から見える二つの管は一つはドレーンです。お腹に溜まった排液を出します。もう一つは尿のバルーンです。きっちりとついています。これは昨年、平成23年11月19日、日本医科大学での私の前立腺癌手術後の写真です。これは自慢できるというわけではないですが、実は私も立派な癌患者なのです。ここにお集まりの皆様の中にはご家族に癌の方またご本人が癌の方も参加されていると思います。私も癌患者さんの気持ちの分かる医者になりました(笑)。では、どうして癌に気づいたかをお話ししましょう。最初の症状は腰部の痛みだったのですね。寒気がしてその後きしむような腰痛がありました。こういうとき普通は炎症を疑います。ぎっくり腰かなとも思いました。もう少し範囲を広げれば関節リウマチも疑われます。しかし、仕事上いろいろなケースを見て学習しておりましたので、この際一応検査をしておこうとなったわけです。腫瘍マーカーといわれるCEA、PSAさらにCA19-9、αフェト蛋白の検査も行いました。そうしますとPSAが19単位で、これは前立腺癌のマーカーで正常は4以内ですから、かなり高値と言えます。まさかの値でした。ここで腰が痛かった事を思い出し、骨への転移を心配してMRI検査や骨シンチグラフィを行うことになりました。「念のため行いましょう」泌尿器科の先生が妙に納得された顔で言われたのが気になりました。医者の顔色って大事ですね。正直言ってこの時はかなり深刻な思いでした。骨シンチグラフィで黒く取り込みスポットが出てくれば今日の日はなかったのですが。けれども、これはおかげさまで大丈夫でした(笑)。
 MRIの画像診断のレポートでは「T3aの疑い。被膜浸潤の疑いもあります。」とのコメントが入り、かなりうつな気分になりました。一昔前のMRIですと判じ物ですので診断幅が広く、人によりかなりバラツキのあるコメントが書かれたと言われています。同じ病院の放射線科の先生ですのできつめに書いたのだろうと思いたくもなりました。が、最近の画像診断は正確度が増しているだけに、従わざるを得ません。結局バイオプシー検査を受けることとなり、一ヶ月後に検査入院となりました。針を刺す所が所ですので男性として心の痛みを感じました。(笑)

図4

 屈辱的な体位での検査です。お尻から超音波検査刺し入れ、前立腺の目安をつけて、ここぞと思われるところに一本二本と針を指します。「福生先生にはサービスしておきましょう」といわれて計16本刺されました。普通は6本かせいぜい10本だそうです。幸い麻酔はうまくかけて頂き、思ったより痛くはありませんでした。
 その結果、甲斐あってか病理検査標本からは中リスク群、グリソンスコア3+4と診断されました。転移ぎりぎりの所です。
 診断をしてくれた泌尿器科の先生は安心させようとしてうまいことを言うんですよ。「福生先生は天皇陛下(と同じ病気)になられたんですよ」と。あまり嬉しくはなかったですが(笑)。
 著明人にも多くの前立腺癌患者さんがおられます。間寛平さん、三波春夫さん、それから元総理の森喜朗さん、映画監督の深作欣二さん、彼は無処置を通し71歳で亡くなられました。読売新聞社の渡辺恒雄さん。彼は手術され、お元気です。それからプロゴルファーの杉原輝雄さん74歳でした。

  1. 不安
  2. 文献をあさり猛勉強
  3. 悔やみ
  4. 先に死んだ知人 ─── 思い出される
  5. スーと抜けた感じ、物事にこだわらない
  6. これからの人生のアドバイス ─── がんサバイバー

表1


 癌を告げられた医師の心理を表1にしました。
 やはり医者でも癌になるとこれまでの感じ方にいろいろ変化が来ます。その違いをもう一人の自分として意識します。一番最初はやっぱり不安ですね、自分が癌になった、なぜ自分がそうなるのかと、これから俺はどうなるだろう。これまでは「癌は患者さんがなるモノ自分には関係ない」と思い込んでいたことの不明、「やっぱり普通の人だったんだ」との思い。それからは文献をあさって猛勉強です。国家試験以上にもう一回勉強し始める。どうなるのかと勉強しました。自分は内科医で手術は出来ませんが、前立腺癌の知識だけは若い泌尿器科の先生にまけない位の知識を詰め込みました。自分の事になると一局集中です(笑)。
 三番目は悔やみ、残念だな、どうして当たっちゃったかなと。そうするとその次には先に死んだ方がいろいろと浮かんできます。友人や親戚が思い出されたりします。「あいつが死んだんだから俺の番になったのかな」といやに納得させられるような気分になります。五番目にはスーと抜けた感じ、物事にこだわらない、みんなに感謝をするようになる。あと、患者さんの気持ちになりよく診る良い医者になる。いや、前もよく見ておりましたので、今まで以上として下さい。(笑)。
 それからこれからの人生の生き方をやっぱり考えます。どうしようかなと。最終結論は「再発を予防して、癌サバイバーとして生きる」です。今はもう高齢社会で2人に1人が癌になって、3人に1人が癌で亡くなる。仲間が多くいることに気づきました。癌サバイバーの方がいっぱいいらっしゃいます。私も癌サバイバーとして生きようと。こういったことでここに縁があったのではないかと思います。



3.癌で死なない方法 ―天寿を全うする癌をめざす―

 で、そこで、癌サバイバーで生きるにはやっぱり癌で死んではいけない。じゃあ、どうするかと考えたのが「癌で死なない方法」です。それには再発を予防して逃げきり作戦を考えるのです。癌と共栄共存し、癌では死なない。苦痛もなく天寿を全うして、解剖してみたら癌があった。こんなのだったらいいだろうと。これを“天寿癌”と言います。実際に疼痛など癌のいやな症状はなく、死んでから発見される癌をいいます。英語ではラテント癌といい、解剖してから、「あっ、この人は癌が潜在していたんだと」このように行かないモノかと考えました。今実際に天寿癌のケースをお見せしましょう。近藤礎先生たちが発表されたケースです。

表2

 102歳、98歳、90歳という方たちです。発見されたときの腫瘤の大きさは7×8.5センチ、2番目の方は10×8.5センチとかなり大きいのですが自覚症状は特にありませんでした。で、この方達が亡くなられた直接死因はというとほとんどが肺炎です。もともとは肝臓の癌です。CT検査で存在は早くから分かっていましたが、症状がないのと高齢なので見守っていたという方達です。これも癌と共存されている例です。現在は肺炎球菌ワクチンというのがありますから、肺炎球菌ワクチンを事前に打っておけばこれらの方の肺炎は予防できたかも知れません。まさしく天寿癌に近づきます。
 では、このような天寿癌の方は選ばれた人達がなるのでしょうか。ここで私が考えましたのは「積極的に天寿癌になるのを目指そう」ということです。ここで出てきますのが発想の転換です。そして癌とウインウインの関係の共栄共存です。ではどうすれば天寿癌になれるのでしょうか。ヒントは、癌で延命している人の秘密を探る事でした。私は必死でした。(笑)
 では、人工的に天寿癌になるにはどうしたらいいか。この問いに対して答えを出してくれたのがこの二人の先生です。ラルフ・スタインマンと丸山先生でした。この二人の先生にたどり着きました。



4.癌から逃れる人の秘密 ―スタインマンか丸山か―

図5

 ラルフ・スタインマンについては高橋先生からもお話がありましたように、2011年のノーベル生理学・医学賞の受賞者です。しかも発表3日前に亡くなられた先生としても知られています。彼の功績はロックフェラー大学での樹状細胞の研究です。有名な方です。私がなぜこの人と思ったかというと、スタインマンは樹状細胞の発見者であり、かつ、ご自身が膵臓癌になられ、そして樹状細胞の刺激療法を開発された実践者だからです。膵臓癌になるとその予後は平均してたかだか2年以内しかありません。スタインマンは自身が発見した樹状細胞を使って5年間生きられたという方です(図5)。
 もう一つはやはり丸山ワクチンの集積した膨大なデータが参考になりました。2006年の『医事新報』に岩城、飯田、永積、それに遠藤先生らにより10年以上丸山ワクチン使用者の予後の調査結果が掲載されています。10年後の生活状態のアンケート結果です。これらアンケートに答えられた元胃癌、元大腸癌の方々は既に10年を経っておられ、言葉を返せば人工的に癌と共存し、天寿癌に向かう可能性が高いということです。丸山ワクチンは再発予防のみならず天寿癌になるワクチンだと私は思うのです。“丸山ワクチンを打って天寿癌になろう”。これが私の新しい目標になったわけですね。
 では、なぜ天寿癌になれるのだろうか。丸山ワクチンが天寿癌をもたらすその機序は何かです。ご存じのように既に40年間以上使われております。結核菌細胞膜骨格の抽出物として最初知られた丸山ワクチンの成分はその後、リポアラビノマンナンという糖脂質である事が分かって来ました。しかしその糖脂質であるリポアラビノマンナンがなぜ天寿癌を起こさせるのか、は明確に分かっておりませんでした。先ほど高橋先生から良い樹状細胞、悪い樹状細胞というお話がありました。これまでの丸山ワクチン仮説を考えて見ますと、①マクロファージ、T細胞、B細胞などの免疫機構を刺激して、これが癌細胞を攻撃するということだったのですが、しかしこれらの細胞やサイトカインの測定ではあまり変化が来ない。どうもはっきりしない。そこで出てきた新しい概念が樹状細胞免疫です。これまでの丸山ワクチンの癌への作用機序は、②コラーゲンの増殖によって癌を封じ込めるという木本先生説、③それから結合織の増殖説、④インターフェロンの産生、リンパ球活性、ナチュラルキラーとありますけれどもどうも“帯に短しタスキに長し”のようで丸山ワクチンはまだまだ謎のベールに包まれていました(図6)。

図6


5.自然免疫力、樹状細胞、NKT細胞とは

 そしてこの謎を解く補助線となるのが見つかりました。それが樹状細胞ですね。この樹状細胞の概念を導入しますと先ほどの天寿癌になるというのが説明がつくようです。なぜかといいますと、この樹状細胞は最初、ドイツの解剖学者ランゲルハンスにより1868年に皮膚(表皮)の中で変な突起を持つ細胞として発見されました。しかしどのような作用をするのかは不明のままでした。ラルフ・スタインマンはこのような突起を持つ細胞群が皮膚だけではなくて胸腺、それから腸の粘膜、血中とか脾臓なんかにも入っていることを突き止め、樹状細胞として命名しそのネットワーク機構を解明したのです。そしてこの樹状細胞の作用は糖脂質を目印にしてナチュラルキラーT細胞〔NKT細胞〕に免疫情報(抗原提示)を伝授することを突き止めました。ナチュラルキラーT細胞というのはNK細胞とT細胞の両方の機能を持ち合わせた細胞で、新たに発見された細胞です。すなわち自然免疫と獲得免疫の両方をコントロールしているといってもいいでしょう(図7)。

図7

 ナチュラルキラー活性、それから細胞傷害性T細胞に頑張れとエールを送っていることもわかってきております。ここに糖脂質が関与していたのですね。丸山ワクチンが再評価されだしたのはこのNKT細胞や樹状細胞が分かりだした事と深い関係があります。丸山ワクチンの主成分が糖脂質のアラビノマンナンである事が分かり出したころと前後しています。
 現在、この樹状細胞療法というのが行われております。ラルフ・スタインマン自身も行ったと思うのですけれども、樹状細胞療法とは糖脂質であるα—ガラクトシルセラミド(WT1)で樹状細胞を刺激しナチュラルキラーTcellに癌細胞の認識機能を強化し攻撃を加えやすいようにするモノです。樹状細胞がナチュラルキラーTcellに「さあ、癌を攻撃しろ」というふうにやっているわけです。このα-ガラクトシルセラミドと、丸山ワクチンの成分でありますリポアラビノマンナンは非常に似たようなところがあり、同じ糖脂質なのですね。ちょうど釣りで言うルアーのようなモノで樹状細胞に伝達されNKT細胞の活性化に持っていくという考えです(仮説)。丸山ワクチンの新しい作用機序が樹状細胞の発見で分かってきたと言うことになります(図8)。

図8

 ここで丸山ワクチンはなぜ天寿癌をもたらすのか。についてもう一歩言えることがあります。意外と単純な事でした。それはランゲルハンス細胞というのは皮膚の中にありますね。丸山ワクチンはその皮下に注射する皮下注射です。筋注や静注ではありません。ランゲルハンス細胞(樹状細胞)を直接に刺激しやすいと考えられるのですね(図9)。

図9

 リポアラビノマンナンという糖脂質が全身に張られた樹状細胞ネットワークを通じて全身のナチュラルキラーTcell(NKT細胞)を刺激し、NK細胞活性を上昇させたり、FASリガンドを発現させたりパーフォリン/グランザイムなど産生し、標的細胞を総攻撃するという仕掛けです。攻撃された癌細胞らはやがて消退するか天寿癌へと向かうと考えられます。丸山先生がランゲルハンス細胞を想定されて皮下注にしたかどうかは分かりませんが、こういったことが明確に今の科学でわかってきたと思います。
 実際にこの樹状細胞療法というのが行われております。

図10

 図10は札幌市内の病院で行った樹状細胞療法で膵臓癌の治療を行った経過を示してあります。樹状細胞療法をする前の膵臓が非常に腫れている所が見えます。次がその後ですけれども、このデータによりますと腫瘍マーカーであるCA19-9という膵臓癌のマーカーが3,000以上あったものが樹状細胞療法によって数カ月後には27.6と正常域に入っております。この時使用されている樹状細胞刺激剤はαガラクトシル・セラミドという糖脂質のWTIという製品です。今後将来ですけれども、丸山ワクチンによる体外樹状細胞刺激療法還流法とでも言いましょうか。患者さんから採取しました血液よりリンパ球を培養して、そしてインターロイキン2で刺激をしてそこにリポアラビノマンナン(丸山ワクチン)でパルスする、そしてもう一度患者さんに血液を還元し自己のNKT細胞を活性化し癌を封じ込める、と、こういうふうな療法も将来はできるのかなと、これは期待したいなというところであります。これはぜひ日本医大の丸山ワクチン研究所でやっていただきたいと思っております。



6.今こそ分子標的薬と丸山ワクチンの併用を

 それともう一つ、癌の免疫賦活療法に関して丸山ワクチンを第一世代とするなら樹状細胞療法というのは第4世代といえます。第二世代はピシバニール、クレスチンと言ったもの。第三世代は体外でIL-2を活性化させるLAK療法です。
 一方、現在、日本で癌治療といいますと分子標的薬が主流となって来つつあります。この分子標的薬というのはこれまでの癌治療の主流であった化学療法の絨毯爆撃タイプではなくピンポイントで癌をたたくミサイル療法といえます。化学療法は癌細胞も正常細胞もやっつけてしまう、ですから非常に副作用も多くでました。吐き気、脱毛とか倦怠感とかが生じるのですけれども、この分子標的薬というのは目印のある癌細胞だけをやっつけるということで、非常に副作用も少なく効果も期待できる療法です。すなわち分子標的薬は実際の細胞の核、DNA、それからシグナル伝達レセプターと癌細胞だけが持つ目印を攻撃しますので副作用は少ないです。現在使用されていますのは肺癌にはイレッサ、乳癌のハーセプチン、慢性骨髄性の白血病にはグリベックとか、大腸癌ではアバスチン、とかいろいろ出てきております。しかしこれで癌はすべてオーケーかといいますとご記憶の方もあるかと思いますが、イレッサで間質性肺炎を起こしたということは記憶に新しいかと思います。またアバスチンの場合ですと大腸癌に主に使われるのですが、出血、逆に血栓、ニキビなど皮膚症状を起こしたりします。それからメラノーマに使われる薬はまた別の皮膚癌を発生させたりします。分子標的薬の特徴である一つの経路を遮断しますが隘路が出てくるのですね。思わぬ副作用が出るときがあるということをご記憶ください。
 そうしますと、先ほどの樹状細胞療法とこの分子標的薬治療、これをうまく組み合わせればもっとより賢明にしかも副作用も少なく出るのではないかというわけです。

図11

 図11にお示ししましたのは大腸癌に対して一般的に今使われておりますアバスチンの効果なんですけれども、例えばさらに FOLFOXというのを加えますと生存率がどれだけ上がるかを検討したグラフです。私たちは癌の有効率を見る場合はその生存率で見るのですが、最強の分子標的薬のアバスチンでも効果が出ますのは大体2カ月から3カ月の延命効果しかありません。これでもって厚労省は抗癌剤としての認可を与えております。これまでの化学療法からみると副作用は確かに少ないのですけれども、分子標的薬、これですべてという夢の薬ではない事は確かです。たしかにいろいろな副作用を減らしますけれども、まだまだ改善の余地はあります。

図12

それに比べまして次の図12は、丸山ワクチンを使った群と使わない群での生存率です。Kaplan-Meier 法で現したモノです。注目していただきたいのは丸山ワクチンを使うのと使わないのでは、例えばグラフでちょうど50%のところを見ますと平均余命は4カ月以上の効果があります。現在一番用いられているというアバスチンが2,3カ月の延命です。丸山ワクチンは6カ月ぐらい。対象も時期も違いますのでどちらがいいというわけではありません。しかし分子標的薬と丸山ワクチンは作用機序がそれぞれ違いますので併用することで副作用を少なくさせる、相乗効果も期待されます。この2つの併用法を今日はご記憶していただきたいと思います。
 さて、丸山ワクチンはなぜかタイミングの悪かった薬ではないかと思います。といいますのは、まず発見されたときには阪大の某教授との確執があったり、丸山ワクチンの効果を実証をせよという1970年、80年のころはまだ樹状細胞や自然免疫という概念がありませんでした。また検査ではナチュラルキラー細胞活性を測る手段もありませんでした。ましてやナチュラルキラーT細胞の活性は現在でも一般臨床検査では出来ません。それから対象となる患者さんですが既に化学療法でへとへとにダメージを受けられた患者さんです。如何に効果のある薬でもこれではなかなか効果が発揮されないのも当然と言えます。そして今現在、分子標的薬の時代となり、次から次に多くの新しい薬が出てまいります。研究者や医師は分子標的薬そのもので本当に効果があるのかそのデータを取りたがるんですね、そこに丸山ワクチンが入ると効果の程がわからなくなってしまうということで、併用したがらない。しかし患者の立場に立てば樹状細胞を活性させることが分かってきた現在、丸山ワクチンとの併用は理論的にも効果的にも期待されることです。これはぜひ厚労省の方にもお願いしたいと思うのです。
 今日は「丸山ワクチンと癌を考える会」のお集まりですから、皆さんぜひ併用して使ってみてもらいたいとお願いしたいなと思います。
 継続は力なりです。免疫学の進歩で丸山ワクチンの作用機序が明らかにされ、特に自然免疫でナチュラルキラー細胞に続くナチュラルキラーT細胞、樹状細胞、こういうのが明確にわかってくるようになりました。そして分子標的薬の治療に丸山ワクチンの併用は相乗効果が期待できると思います。それから高橋先生も先ほど言われましたが、丸山ワクチンは40日分で9,000円ということで非常に安いわけですから、医療経済的、少子高齢化の時代にも意義があるのではないかと思われます。
 最後になりましたが丸山ワクチンを通じて学んだ事は「継続は力なり」ということです。それに「本物は続きます。続ければこれは本物になります」。私も癌サバイバーとしてこれから頑張って行きますので応援よろしく願います。今日はどうもご静聴有難うございました(拍手)。