講演会(ご案内・ご報告)

第7回講演会

プログラム1
「丸山ワクチンの軌跡と展望」
静岡県立静岡がんセンター病理診断科
亀谷 徹先生


1.皮膚結核の薬として開発された丸山ワクチン

亀谷 徹先生  亀谷でございます。これからこの丸山ワクチンとは一体どういうものであるかと、いつごろからこういうものがつくられて、それがどういう経過をとって、今がんとどういうふうにかかわりあっているかということを、私はがんの専門家なものですから、うっかり難しい言葉を使うかもしれませんけど、できるだけわかりやすく説明しますので、皆さんにわかっていただきたく思っています。
 丸山ワクチンというのは、日本医大に長くおられた方で、もう今は亡くなっております丸山千里先生が1947年、すなわち戦後まだ間もないころにつくったものですが、初めはがんのためではなかったのです。この丸山ワクチンは結核菌の成分からつくった溶液なのですが、皮膚の結核にどうも効くらしいというので、それをいろんな種類の皮膚結核の患者さんに使ったら、えらく効果を奏することがわかりました。それまでずっと、皮膚結核についてはいろんな薬があったのですが、なかなか効かなかったんですね。それで、何十年もそれに苦しんでいた人がいたのですが、この丸山ワクチンを使うとえらくよく効くことが、1947年に初めてわかったわけであります。
 それで、これはすごいというので、日本じゅうの皮膚科の先生が丸山先生のところにワクチンを取りに来て、それぞれの大学でこの皮膚結核に使ってみた。そうしたらすごくよく効くんですね。
 1964年、日本皮膚科学会誌に掲載された表「ワクチンC型(単独療法)による治療成績」(丸山千里)を見ますと、いろいろな皮膚の結核と関係のある病気、すべてにおいてかなりよく効くことがわかります。
 全体の518人の中の408人が、ほとんど完全にそれで治っている。それから、完全には治らなくても大分よくなったというのが略治38人、軽快67人いる。全く効かなかったというのが5例しかない。すなわち、518例中の5例を除き、ほかのは全部この皮膚結核によく効くということがわかったのです。
 それで、日本中の皮膚科の先生がこれを取りに来て、これはすばらしいということになったんですが、ちょうどそのころに、結核の特効薬、皆さんもご存じだと思いますが、ストレプトマイシンという薬が発見されまして、それが実際に結核にめちゃくちゃによく効くということがわかった。
 それまで結核というのは、非常に重要な疾患でなかなか治らない。特に肺結核でたくさんの人が死んでおりました。がんよりも国民の大部分が、むしろ結核によって亡くなるという状態だったのです。
 皮膚結核に効くなら、肺結核にも効くんじゃないかということで、丸山ワクチンを肺結核に使ってみたらかなりよく効く。しかし、ちょうどそのころストレプトマイシンそのほかの結核の特効薬が発明されたため、残念なことに急にこの丸山ワクチンの影が薄くなってしまいました。
 その後、このワクチンはがんにも効くんじゃないかということを思いつくようになるわけでありますが、その前に・・・。
ハンセン病というのは皆さんご存じかどうかわかりませんけれども、らい病のことです。このらい病は、やはり皮膚の病気です。そして結核と同じような細菌、すごく似ている細菌なんですね。それによって起こる病気でありますが、恐らく、結核に効くのならこれにも効くのではないかとやってみたところが、ここに示しますように、43名のハンセン病の方の汗腺の機能が回復し始めました。こういうことは今までの薬ではなかったわけです。それから、そのほかの幾つかのハンセン病の症状が回復することがわかったというので、やはりこれは結核と似たところがあるんだなということも明らかになったわけであります。



2.丸山ワクチンによる初めてのがんの治療

●症例1:74歳、女、胃がん(がん性腹膜炎)/丸山千里 日本医事新報No.231715-21,1968

 これは1968年に、初めて丸山ワクチンをがんの患者さんに投与した例です。1968年ですから随分昔ですね。そのころに74歳の女性で胃がんの方、もう既にその方はがん性の腹膜炎となっている状態です。そして口から物をとることができない状態でしたが、まあ手術で取れるかもしれないと思って開腹してみると、胃の出口のところに手拳大の大きな腫瘍があって、到底胃を取ることは無理だということがわかって、ただ空腸瘻、すなわち皮膚のところへ空腸から管をつけ、表面に出るようにするわけですね。それだけで手術は終わりました。
 そして、それからしばらくしてから、毎日1回丸山ワクチン注射を始めたわけです。そうしますと、約100日で普通食をとることができるようになって、それから胃の腫瘍もほとんど触れなくなった。がんが消失してしまったということです。これを見ますと、注射後175日で、もうほとんど胃がんの症状はなくなったというので、チューブも除き、患者さんは健康体になって普通の生活を始めたというふうに、この1例目について書かれております。今から42年ぐらい前ですね。そのころに初めてがんにワクチンを使って効くということが証明された例であります。1968年のことです。



3.他のがんに対しても有効であることが判明

 それならもう少しいろいろながんに使ってみたらどうかと考え、特にがんの患者さんの中で、皆さんもうかなり末期の患者さんで、手術してもまず治らないだろう、それに抗がん剤もそのころは良いものはないころで、どうしようかと考えているところで、まず手始めに158例の末期がんの患者さんに使ってみたわけです。

 そうしますと、このように著効の人が例えば胃がんで17例、有効の人が38例、すなわち半分以上が胃がんでも効いておりますね。そのほかのがんでもそれぞれ効いております。まあ、使った患者さんの数が少ない皮膚がん2例とか膀胱がん1例、舌がん1例とかいうのは、実際に効いたのもありますし、まだこれぐらいの数でははっきりしたことは言えない状態ですが、少なくとも患者さんの多い胃がんとか大腸がんとか直腸がん、食道がんとか、そういうのではかなりの例がこのワクチンが効くということが証明されたわけであります。



4.進行期胃がんの抗がん剤と丸山ワクチンの延命効果

 そこで、まず現在の状態では、この丸山ワクチンがどういうふうにがんに効いているか、あるいは効いてないかということをお話ししたいと思います。
これは現在日本の進行胃がん、もう末期の胃がんですね、そういう患者さんはやはり手術はできないわけですから、ほとんどの方は化学療法を施されます。すなわち、いろんな抗がん剤を使うわけですね。そうしますと、この図でおわかりになるように、青はS-1とcisplatin、2つの薬を使った。赤はS-1という薬だけを使った場合。このS-1という薬はここ二、三年前に発見された抗がん剤で、胃がんにはよく効くということが世界じゅうで証明され始めているところです。
 その一番いい薬を使ったとしても、たとえば1年(12ヶ月)のところでどれくらいの方がまだ生存しているか。1年ではまだ60%が生存している。それから2年(24ヶ月)ではもう20%以下の人しか生き残ることができない。たとえ抗がん剤をやったとしてもそれくらいのこと。それがさらに4年(48ヶ月)ぐらいたつと、もうわずか数%の方が生き残っているだけということで、すなわち、抗がん剤はある程度生存の時間を延ばすことはできるけれど、完全に治すことは絶対にできないと。すべてどこかでだめになってしまうということがこれで明らかになったのです。現在の化学療法はまだこういう状態だということです。したがって、何かほかの薬を使わなくちゃいけないんじゃないか、あるいはもうこれからもこのままずっと末期胃がんというのはこういうものだとして終わってしまうかどうかということになるわけです。

●症例2:65歳、男、リンパ節と肝転移を伴う切除不能胃がん

 胃がんの切除がどうしてもできないような方に丸山ワクチンを使ったたくさんの例の中の1例で、現在まだ生存中の患者さんですが、非常に苦しい思いをして発症から2年数カ月、今がんと闘っている最中の患者さんです。
 昭和19年、1944年生まれの方で、胃がんです。どうして見つかったかというと、2007年7月、どうも上腹部の不快感があって、内視鏡で見ると明らかにがんが2つ見られる。そして、そばのリンパ節に4,5センチの大きさの転移があって腫れている。また肝臓にも転移があるということがわかった患者さんです。生検をしますと、明らかに胃の腺がんであるということがわかりました。
 このような状態の、リンパ節と肝転移の状態を伴いますと、これは非常に末期のがん、すなわちIV期の進行がんと私たちは言いますが、とても手術をするわけにいかない状態で、そのときには3から6カ月の余命であるということが判断されました。そして、患者さんにも恐らくお医者さんはそう言ったんだと思います。
 それで、その時点から丸山ワクチンを使い始めました。現在まで継続しております。
初めは抗がん剤のTS-1(S-1の商品名)、イリノテカンを6コース、かなりきついんですがそれをやる。そして原発巣が著明に縮小しました。そして、2008年1月18日になると、肝転移もかなり消失している。
 しかししばらくすると、肝転移の1つがまた大きくなってしまった。化学療法の副作用が出始めたので、もうこれ以上薬をやることができないけれど、大分お休みをしてから、また違った薬、ドセタキセルとTS-1を、何回かやった。そしてその次に、どうもこれでは調子がうまく出ないと。それで、今度は肝臓の動脈にシスプラチンという抗がん剤を注射して、一時その肝臓の転移が縮小しました。それからまた、ほかの薬、クレスチン、パクリタキセル。こういうふうに何回か繰り返して、ことしの1月23日、さらにもう一度肝臓の動脈から抗がん剤を注射しました。その後、上に書いてあるような薬を繰り返しやりましたけれど、これ以上やるともうだんだん毒性が強くなって、そしてほとんど効き目が見られないというところに来ておりまして、現在化学療法は施行せずにおります。
 それで、2009年の6月27日までこの患者さんを我々は見守っておりましたけれども、どういうふうになるか。もう化学療法はできません。しかし、丸山ワクチンは今も使っております。初めに、2007年6月30日に胃がんであり、そして余命は3カ月か6カ月であるというふうに言われていたのですが、ともかく2年は何とか生きたというようなのがこの症例で、患者さんが必死になってがんと闘っている状態であります。
 すなわち、これで丸山ワクチンが余命をかなり延ばしているのかどうかということは、断言はできませんけれど、先ほどの図「日本における進行胃がんの最新化学療法による成績」を見ていただくと2年生きている人は、ほとんどありませんね。ということで、やはりこれは、ワクチンがかなり効いているのではないかというふうに考えざるを得ないわけです。

●症例3

 これは別の胃がんの患者さんの例ですが、65歳の男性で、初めのうち3ヶ月間、抗がん剤のFT207を使いました。しかし、そのうちに肝臓に転移が出てきました。下のほうに絵がかいてありますが、多発性の転移が肝臓に出てきました。このころから抗がん剤をやめて、丸山ワクチンだけを4年8カ月使いましたが、4ヶ月で肝転移が全部消え、ずっと56年8月まで健在であるということは、とても胃がんの転移のような例で考えることができない。普通の化学療法を行う場合、2年以上生存は1%以下です。ということで、これはどうしても丸山ワクチンが効いたとせざるを得ない症例です。

 1980年、今から30年前ですから古い成績ですが、たくさんの例について胃がんを分析した先生がいます。服部先生という方が調べたものですが、左のグラフを見てください。
 左のほうは、32名の胃がんの患者さんにSSMすなわち丸山ワクチンと化学療法を両方一緒にやった例です。
 そうしますと、グラフの中程、生存者50%のところに5.5Mと書いてありますね。すなわち5カ月半ぐらいのところで50%の方が生きているということです。これに対して、右側のグラフで、化学療法だけで丸山ワクチンを使わなかった場合にどういうことになるか。66名の患者さんで胃がんを見てみますと、半分の方が3カ月しか生きていない。そして12カ月で比べると、左のグラフでは28.1%の方がまだ生存しておりますね。それに対して右側の化学療法だけでやった場合は、1.5%。66名の1.5%ですから1人しか生きてないということです。
 ということは、どうしてもこれは丸山ワクチンがこの末期胃がんの患者さん方を延命させたと言うほかないというデータです。
 同じ頃、他の先生による非常に類似のデータがあります。A群は、非治癒切除。あけてみたけどがんは完全には取れないなと、それでもまあ一応取ろうというので大部分は取れたんですけれど、残っていることが明らかです。そういう患者さんにMFCという抗がん剤を投与した。B群は、それのほかに丸山ワクチンを一緒に投与した場合です。
 そうしますと、B群のほうは、すなわち丸山ワクチンをやったほうは70%の方が10カ月でまだ生存しているということです。それに対して、抗がん剤だけをやったほうは47%、すなわちこれだけに減ってしまっている。さらに15カ月以上たったときには、B群とA群の差もやはりかなり大きいということで、これもやはり、丸山ワクチンが延命効果をもたらすものであるということを明らかに示しています。
 さらに、それから5年後ぐらいに、丸山ワクチンの施設においてデータを分析した結果。グラフのimmunoと書いてある方は、丸山ワクチンをやったという意味です。それからcombiと書いてあるのは、化学療法だけの患者さんです。
 縦軸が生存率で、その2つを比べてみると、どこをとってみても化学療法だけでは生存率が非常に低い。それに対して丸山ワクチンをやったほうは生存率がかなりある。もちろん大部分の方は亡くなっているんですよ。しかしそれにしてもこれだけの差があるということが明らかになった。こういうデータ、この3名の研究者の胃がんについてのデータが、この1980年代の初めごろから幾つか出ました。
 このことについては、もう私は余り言わないつもりですけれど、こういうデータの妥当性を厚生省は承認しなかった。こういうデータが非常に重要であるということを全く無視した。そのために、そのころに丸山ワクチンは実際の保険薬として承認されなかったことになってしまったわけです。それから、承認されないということが出てしまってから、既に30年たっております。しかし、そのまま厚生省はほったからしのまま平気でいるわけです。
 これと軌を一にして、次のようなデータがあります。これはワクチン施設において1984年までに収集されたデータです。末期胃がんの患者さんが7,280例集まっております。
 先ほど初めに言い忘れましたが、現在までに丸山ワクチンを使っている患者さんは、累計38万件あります。38万の人がこの丸山ワクチンを使っているということを、皆さん記憶にとどめておいていただきたいと思います。

 これは1984年までのデータです。左側の縦に長い棒グラフがずっとある。5,206人は、丸山ワクチンの使用期間が1年間以下という方です。それに対して、右側の1,140とか396とか168とか100とか、ずっとつながって、最後の5年以上使用した方が85人ということです。
 なぜそれがわかるかといいますと、40日ごとに丸山ワクチンがなくなると患者さんあるいはその家族の方に取りに来ていただく。ワクチンを取りに来たということは、そのときにまだその患者さんは生存しておられるということになります。したがって、1年生きた人もあるし、1.5年生きた人も、5年以上生きた人もいる。5年以上生きた人が85名いるということです。全体の数は7,280例です。そのうちの85名の方が5年以上生存していると断定せざるを得ないのです。こんなことは何でもないんだと言う人があるでしょうか。
 今までの初めのほうの統計を見ていただくと、2年以上生きている人はこういう末期の胃がんの患者さんではほとんどいないはずです。それなのに1年から5年以上生きている方がこれだけいるということが証明されたわけです。
 このようなデータは世界中のどこにもありません。これは長い間ワクチンを使いたいという方がたくさんいるからできたわけでありまして、累計38万人の中から出てきたデータだと考えていただいていいと思います。



5.進行期の肺がんと丸山ワクチン

 ここまで胃がんの話をしました。次に肺がんです。
 肺がんは今では日本では一番たくさん死亡するがんです。それから、発生頻度も胃がんをそろそろ上回るんではないかと思うくらい1番目ないし2番目のがんです。女性はちょっと少ないですが。そして胃がんよりもむしろがんとしては悪いがんです。
 これは2007年、最近のデータですが、日本人の患者さんで進行期の肺がん、IIIBとかIV期とかいう肺がんの方は、今一番肺がんに効く薬だと思われているのを使っても、緑と赤は違う薬なんですけれど、どちらにしても1年のところで生存はもう10%、いや5%以下ですね。1年でほとんどの方が死んでしまうわけです。それからさらに2年になると、もうほとんどゼロに近い。これは統計の取り方もあって、2.2%と書いてあります。まあ、ほとんどすべての方が亡くなってしまうというのが実情であることを示しております。
 ところが、丸山ワクチンを使って、長く生きることができた患者さんがこんなにいるわけです。すなわち、かなり進んだ肺の腺がんで長期の生存を見た例があります。49例の方が3年以上生きています。11例の方が、ほかの治療もやっている。丸山ワクチンだけでは6例。それからほとんど丸山ワクチンのみではないかというのが13例。
 というようなことで、これは10余年間の調査ですが、それによってこれだけの長期生存が存在するということが証明されたわけです。普通の肺がんの専門の病院、がんセンターのようなところにはたくさんの肺がんの患者さんがいます。その治療をしているお医者さんはこういうふうな丸山ワクチンのデータを全く知らない。なぜなればそういうものを使わないから。そういうものの存在も知らないから使わない。ということで、こういうデータは我々から発信しなくてはいけないと思っております。

1つの症例をお目にかけます。肺の腺がんでやはりもう末期がんです。ところが、その方は結局7年生存したということが確認されている例です。その後どうなったかはわかりません。本当はもっと長生きされているかもしれません。

●症例4

 61歳の男性です。肺腺がんでIV期、遠隔転移があるということです。IV期ということはすなわち転移がある、到底もう手術なんかできないという状態です。それでも一応取れるかなと思って、胸をあけてできる範囲で肺の原発巣を取った状態で、1987年、1年ぐらいたったときに脳転移が来てしまった。脳転移は、摘出した後でさらに放射線をかけて、できるだけそれをなくそうという努力をしたわけです。
 その後、ずっと1987年から1994年、この間丸山ワクチンだけで化学療法、放射線は一切やらないで、1994年現在7年生存しておられるということであります。こういう効果が実際にあるということですね。
 私はがんセンターにずっと長いこといましたから、いろいろな病期の状態の人を知っております。それから、死亡された方の解剖もたくさんやっております。そうしますと、脳転移が起こったようなのは、これは何をしてももう全然無理だということで、まあそのまま静かにしておきましょうということか、あるいは無理に抗がん剤又は放射線を使う。しかしそれで長生きした患者さんは一人もいないという状態でありますから、これはやはり丸山ワクチンが効いたとせざるを得ないということになります。

 しかし、抗がん剤を何か罪人のように、私は今までずっとしゃべってきましたけれど、抗がん剤を使う人たち、抗がん剤をつくる人たちも必死になってやっているわけです。そして1980年ころの抗がん剤と現在の抗がん剤とは随分変わってきておりますし、日進月歩で抗がん剤はいいものがだんだんできております。そして、昔のように、患者さんが死んでもいいから使えというような無謀なことは今はいたしません。そういうことは絶対に禁ぜられるようにがんを扱う医師たちを教育しております。
 したがって、三、四年前にイレッサ(Gefitinib)という、皆さんもお耳にされたことがあると思うんですが、この薬が肺の腺がんにものすごく効くという前触れがありました。おまけに重要なことは、日本人によく効く。それから日本人でも女性によく効くということがわかったんですね。
それで、その肺がん細胞の遺伝子を分析いたしますと、 “EGFR”と書いてある、がん細胞の膜にある物質を支配する遺伝子が変異を起こしているがんの人にこのイレッサを投与すると、非常によく効くことがわかったのです。その変異のないがんだとイレッサを投与してもなかなか効かない。
 それで、この図に見られますように、この黒いほうの線がイレッサを使った患者さんの生存曲線で、日時を経る中で患者さんの減り方がもう一つの曲線に比べかなり少ない。無増悪生存率と書いてあるのは、これは薬が効いている状態を無増悪生存といいます。したがって、もう薬が効かなくなったところでは、もう薬を使ってもしようがないわけですね。だからその無増悪生存率が長ければ長いほど長く薬が効いているわけです。従来使っていたこちらの、ちょっと薄い線になっているCarboplatin plus paclitaxelに比べると、このイレッサというのは非常によく効くということがわかります。
 しかし、これにしても、ある時期からはもう効かなくなる。もうそれ以上使っても、再びだんだん腫瘍は大きくなってくるという状態です。これは特効薬と言われても、初めは非常に効いたけど、二、三年たつとほとんど効かなくなるというのが現状なんですね。したがって、これはもうすごい薬だと5年前に言われたのですけれど、現在ではやはりある期間効くだけだということになります。即ち完全にがんををなくしてしまうことは今でも証明されておりません。
 そして、本当にこの薬で長生きした人がいるか、例えば5年なり10年なり生きた人があるか即ちどれだけの延命効果があるかはまだわかりません。なぜかというと、この薬が発明されてからまだ4年しかたっていないからです。
 しかしこれは、今までの肺がんの治療をする人々は、あれこれの抗がん剤が効かなくてもう本当に情けなくてしょげかえっていたんです。だけどイレッサが効いたので、もうみんなびっくりして飛びついたんですね。だけど今ではこれも、まあ肺がんの患者さんにとってはそう大したことはなかったということが初めてわかりました。これはことしの8月の“New England Journal of Medicine”、世界で一番権威のある雑誌と言われている雑誌に掲載されました。日本と香港と、タイ、それから韓国など東アジアの肺がんの患者さんを集めて、この薬を使ったらどういうデータになるかということを分析したもので、非常に高い評価を受けているものです。だけど、この特効薬もがんを完全に治すことはないというのが現実であるということです。



6.大腸がんの丸山ワクチン長期使用例と最近の治療

 次に大腸がんです。大腸がんは日本でどんどん増えています。しかし、ここで見ますと、これはアメリカのデータですが、直腸がんを除く大腸がんで11万9,363例。随分集めたものですね。アメリカの統計の集め方は非常にうまいので、アメリカで大腸がんになった人全部を対象にこういうふうなデータの分析ができます。そして、I、II、III、IVと書いてあるのは、ステージ即ち病気の進行度がだんだん悪くなっていった状態、それでIV期になると、もう5年では8.1%ぐらいしか残らないというのが現実だということであります。
 この大腸がんで長期生存がやはり、丸山ワクチン使用の患者さんにあるのです。ここでは、使用した後の生存期間が10年から30年といういくつかの症例がございます。17例、あるいは6例、7例と、単独でやったもの、あるいは化学療法と一緒にやったものといろいろありますが、これだけの人が12年から30年生きているということは、普通のがんセンターで働いている人たちは全く考えもしないんですね。それは何かの間違った宣伝じゃないかというふうなことを言われる。
 私は一度、こういうふうなデータの論文を、がんセンターで10年以上がんの経験のある医者5人ぐらいに読ませまして、「おまえたち、これをどう思うか」と言うと、「これは何かの宣伝でしょう、こんなことがあるはずない。」と言うくらい、ワクチンについてはほとんどの医師は無知です。
 今から30年前のお医者さんはともかく丸山ワクチンという名前は知っていました。今30ちょっと過ぎくらいのお医者さんは、ほとんど知りません。ちょっと知っている人がたまにあるという程度です。なぜこういう状態にあるかということは、きょうは時間がないのでお話ししません。それは篠原先生が言ってくださるかもしれません。
 しかし、大腸がんはこの丸山ワクチンだけじゃではなくて、他のいろいろな治療方法で随分生存率は改善しています。例えば、大腸がんはかなりの率で肺に転移します。けれど、転移しても最近ではそれを手術で取ります。そうすると再発しないで10年以上生きる人がかなりいます。この一番上の曲線ですがね、10年以上たつとほとんどもう平行になってくるから、ずっと生き延びるということですね。すなわち、もうほとんど治癒と考えていいんじゃないかということが、実際に起こっております。したがって、現在では大腸がんの肺や肝に転移が起こったら取るというのが常識となっています。今から30年前は、肺に転移が来た、それではもう終わりだと。そんなもの取っても全く無意味だというふうな考えがあったのですが、現在では違っております。それから、抗がん剤も大腸がんに非常によく効く薬が、ここ3年の間に続々と発見されております。だから、それにも大きな期待があるのですが、なお完全に治すことはできないであろうというのが私の予想です。



7.肝臓がんと丸山ワクチン

●症例5:66歳、男、肝細胞がん

 次に肝臓がん。66歳の男の方で肝細胞がんの例をお話しましょう。この方もやはりもう末期(IV期)の方で、まあ、抗がん剤もやってもしかたがないだろうということで、患者さんも抗がん剤を使うことは嫌だと,そして丸山ワクチンだけを使ってくださいということで、丸山ワクチン一本で行くこととしました。使い始めてから2週間くらいで呼吸困難が改善し、全身倦怠がなくなり、食欲が増加して、4カ月後、もといた会社に勤めることができたという驚異的な例があります。
 矢印のところ、肝臓に黒いところがありますね。これはそこに腫瘍がある、抜けてるからです。それが4カ月後、こういうふうに影がなくなりました。

 初め丸山ワクチンを投与する前、肺に白い丸い影がたくさんありますね。これは全部肺の転移です。肝臓がんの多発性肺転移です。

 ところが、これが丸山ワクチン投与後、全部なくなっていますね。すっかり消えちゃった。それで、化学療法もやってないわけですから、自然にこういうことが起こっているか、丸山ワクチンが効いたかどっちかです。
 自然にこういうことが起こることは、まあ、それは何千万のうちに1つあるのかもしれませんけれど、私は見たことがないです。転移巣が完全に消えていることはだれも否定できません。前と後のを比べて、少なくとも肝と肺のがん病巣は消失したということがわかります。
 肝臓がんというのは特別な物質をいつもつくっていて血中にそれが出てきます。AFPとPIVKAという2つの物質が血中に出てきますから、もし肝臓がんが少なくなる、あるいは治ってくるとだんだんそれが下がってきます。
 ワクチンの皮下注射を週3回やり始めてから、この物質の値がほとんど正常に戻っていますね。ということは、やはり、ほとんど肝臓がんがなくなってしまったと言うほかないわけです。そして、その後復職ができた。丸山ワクチンが効いたという例の中でも、私は、これはもう絶対に、確信を持って効いたと断定できる例だと考えております。



8.子宮頸がんと丸山ワクチン

 子宮頚がんというのをご存じですね。女性のがんでは非常に多いがんで、だんだん日本では少なくなっているんですが、それでも女性のがんとしては2番目ないし3番目に位するがんです。そして、そのほとんどは、実際にウイルスの感染によって起こると言われています。去年、子宮頚がんのほとんどはHPVというウイルスによって起こるということを証明した人がノーベル賞をもらっています。

●症例:55才、試験開腹切除不能子宮頸がん、8年生存

 この患者さんは55歳ですけれど、8年生存することができた。それで、試験開腹したとき、もう到底これは切除することはできないと。
 子宮の頚部のところで、ここに原発のがんがありますが、子宮の周りの結合織のところにがんがずっと入り込んでいる状態で、これは到底手術はできない、そしてリンパ節の転移があったという状態の子宮頚がんです。
 ところが、この方が丸山ワクチンによって8年生きた。初め数回は抗がん剤をやっているのですが、あるときから5年間は全くやっておりません。そして、患者さんは今ほとんど健康に過ごしているという状態は、やはりこのワクチンの威力を考えざるを得ないということになります。



9.丸山ワクチンによるがんの封じ込め

 最後に、一体丸山ワクチンを使ったら、がん組織にどんなことが起こっているのだろうと長年考え、患者さんのがん組織や実験的ながん細胞を動物に移植して、丸山ワクチンががん組織にどんな変化をおこしたかを研究した方が、川崎医大の木本哲夫先生という方です。残念なことに先生は亡くなってしまいましたが。
ここにがん細胞の塊があります。その周りに青いところが取り囲んでいますね。

 この青いところは結合織、膠原腺維ですね。膠原腺維、即ち結合織ががんを取り巻いてがんを封じ込め、がんをどんどん小さくしている。あるいは封じ込めたがんを殺してしまって、それでがんを治すというのが、木本先生の論文の結論です。
 もうちょっと詳しくこれを説明するとすごくおもしろく、そういうことが確実に証明されています。しかし、日本の医学者も世界の医学者も、こういう論文に見向きもしません。
 なぜかというと、この学術雑誌は世界の人が読む雑誌ではないからです。日本語で書いてあります。そして、日本の中でも、この雑誌の名前はほとんど知られておりません。こんなことを言うのは失礼ですけれど、川崎医学界誌というのは、外国人の医者どころかほとんどの日本人の医者は読みません。したがって、こういうふうな立派な業績も無にされてしまうわけです。現在はそういう状態にあるということです。



10.がんの芽をたたく-がんの予防-

 最後に1つ言っておきたいことは、がんは結局、だんだん大きくなる。ほっておけば、何もしなければどんどん大きくなる。無限に大きくなるわけですね。それにしても、実際には無限に大きくならないのは、人間が死ぬから大きくならないだけです。人間がずっともし生き続けていれば、がんは無限に大きくなる。人間の体よりも大きくなるかもしれません。そこまで行く前に人間は死んでしまうから、それ以上大きくならないというだけの話ですね。
 がんはがん細胞からなっている。がん細胞というのは、皆さん顕微鏡でごらんになった方はすぐわかると思うんですが、非常に小さいです。がん細胞の1つは1ミリの10分の1から100分の1です。したがって、がんが大きくなるというのは、細胞が分裂してどんどん数を増やして、その容積が大きくなるということです。

 したがって、がんが1ミリの大きさのときには、例えば皮膚がんであって表面にあってもなかなか普通の人は気がつかない。もちろん医者でも気がつかないかもしれません。1センチになれば、多くの人は、あ、これはおかしいなと思う、気がつくでしょう。だから、1ミリの状態のがんを見つけることは非常に難しいんです。
 だけど、1ミリの中には既に100万のがん細胞があります。しかし、そのがん細胞100万が1センチになるのにはそんなに時間はかかりません。幾何級数的にどんどんがん細胞というのは増えて容積を増すわけですから、1ミリから1センチになるにはそんなに時間はとりません。
 がんを人間に例えれば、がんの一生というのは1ミリの間にもう大部分が過ぎてしまう。だからその間に、というのは人間から見るとがんの芽みたいなものですね。まだほとんど目で見えない状態、その時代につぶせば一番いいということです。すなわち、その時代につぶすことが予防ということになるかもしれません。
 そして、そういうふうな芽になるときに、もし薬をやればうんと効きがいいということもわかっております。それは免疫療法とかいろんな方法で実験的にもわかっているところですが、その前にたたくには、丸山ワクチンのような、患者さんにほとんど障害を与えないで続けることができるものが非常にいいのではないかと思います。
 予防に丸山ワクチンのような薬を使うということをどのように考えるか、これは非常に難しい問題です。予防的効果があることを証明することも非常に難しいですね。10万人ぐらいの人間でやらないと、証明することは難しいと思います。たばことがんの関係はわかっている。それがなぜみんなに受け入れられるようになったかというのはですね、今から50年前にイギリスのお医者さんが、5万人のイギリスのお医者さん全部を50年間フォローアップしています。それによって、もうこれはたばことがんの関係は絶対に確かだということを証明したから、みんな納得しているわけです。
 以上で話を終わります。(拍手)