講演会(ご案内・ご報告)

第1回講演会

プログラム1
『ご挨拶』
NPO「丸山ワクチンとがんを考える会」の発足について
NPO「丸山ワクチンとがんを考える会」理事長
東京大学名誉教授:篠原 一


NPOの理事代表としてご挨拶をさせていただきます。丸山ワクチンの製造認可を求めて結成されました丸山ワクチン患者家族の会(以下“患者家族の会”)は、1980年設立以来25年を経過しました。認可申請の過程で丸山ワクチンの製造が中止になる危機が起きたことから、患者家族の会が結成されました。
当時は、癌を撲滅するということが自信をもって叫ばれている中で、医学界ではおそらく禁句であったと思われる“癌との共存”ということを丸山先生はよく言っておられました。また、当時は生活の質(quality of life)という言葉も必ずしも正当性を獲得していなかった時代でした。しかしそうした時代の中で、皆様のご協力によって丸山ワクチンの供給が続けられ、丸山ワクチンの研究施設も健在であります。そしていま、免疫学の発達によって、丸山ワクチンが新たな脚光を浴びる時代がくるようにも思われます。
私どもは、これまで四半世紀にわたり患者家族の会として活動してまいりましたが、これを今後更に進めて、もっと社会の中に出て行動することが大切なのではないかと、NPOの設立を決意したしだいです。

NPOという組織は、正式には1998年に作られた特定非営利活動促進法という法律にのっとったものであります。この法律は、新しい時代が到来して、市民が社会の為に営利を目的としない活動をするということが大切になるという雰囲気の中で出来たものです。現在は、全国でおそらく2万以上のNPOが活動しているものと思われます。NPOは、時代が生み出した新しい組織です。私どもの患者家族の会は、もともと時代に先駆けてボランタリーな活動をしておりましたが、今般、新しいNPOの法律も出来たことでもあり、この新しい法律にのっとった新しい組織を作って活動の輪を広げていこうというのがNPO設立の趣旨であります。
ここで少し専門的なことを言わせていただくならば、私達、社会科学の領域では、“官”(官庁)の仕事のほかに“民”(企業)の仕事がありますが、これに加えて市民的公共性という意味での“共”というフィールドがあるとされています。そして、いまやこうした“共”の考え方が大きなウェイトをもってきているということが共通認識となっていますが、この市民的公共性の実現のためにNPO法が出てきた訳であります。

NPOの設立にあたっては、登録が必要になります。また担当官庁は当NPOでは東京都となっております。NPOの設立は、認可ではなく実質は届出に近いものであると認識しておりますが、登録にいたるまで何度か東京都へ足を運ばなければならず設立にいたるまではなかなか大変でした。そして登録するにあたっての担当官庁とのやりとりが終わると認証が得られ、NPO法人となります。これまでの患者家族の会の活動というものは、理論的にいえば、互助会のような性格のもので患者同士が助け合って活動をしていくようなものです。これに対してNPOは不特定多数の一般市民に対して働きかけることを想定する新しい事業です。これがいわゆる市民的公共性の活動ということです。
但し、NPO法人は決して認可団体ではありませんので、いったん設立されれば、その後は目標の範囲内で自由に活動が出来ます。私達はこの趣旨にのっとって、今後皆様のご意見を伺いながら自由な活動をしていきたいと考えております。
ここで若干私の個人的な見解を述べさせていただきます。医療問題はお医者さんや科学者にとっての問題にとどまらず現在、市民社会全体に於ける大きな問題になっております。市民と医療、とくに生命と医療倫理との関係は大きな問題となっており、これは社会科学の最先端の問題です。この医療問題をめぐって欧米の大統領や首相は、どのように処理すべきかで大論争をしております。日本はこの点では相当遅れています。私達はこの命をめぐる大きな社会問題の一端に携わっているのだという認識の下で活動しています。
たとえば、今新しい遺伝子の問題が出てくるとします。そして医学の領域で遺伝子の分析を突き詰めていき、細かい部分の問題が解明されればされるほど、逆に人間のあり方全体が分からなくなるという状況が生まれてきます。一部の学者は、遺伝学という言葉は最先端のもののように使われているが、しばらくするとその言葉も使われなくなるのではないかとさえ言っています。つまり、部分の研究を進めていくと、それ自体は分かってくるのですが、全体がどのように機能していくかという、全体の作用機序が分からなくなるという問題点です。従って、この問題点を推し進めていくと科学は哲学や宗教に近づいてくるのではないかともいわれています。
まとめてみますと、命の問題が人間社会最大の問題であること、もうひとつは、考え方として全体と部分の相関関係が問題になっているということですが、それがいま社会科学を含めた科学全体の問題になっています。

もちろん私が丸山ワクチンを打たせていただいたのは、個人的な理由で、出来れば転移を防ぎたいという願いに基づくものでした。丸山ワクチンは人間の治癒力を増強してくれるのではないか。もちろん残っている癌に対する攻撃ということもありますが、もうひとつは、新しい組織変化が起きたときに最初の段階でつぶしてくれるのではないか。さらには最近の研究では、組織は自己自殺する機能を持っているのだそうですが、ワクチンがそうした機能を強めてくれているのではないかという気持ちもありました。
私が丸山ワクチンを打ち始めて以来、癌について新しい研究がどんどん出てきています。その意味で部分の研究は大いに進んでおります。しかしながら他方において副作用という人間の全体の問題が出てきています。同様に生活の質(quality of life)に関する問題も出てきています。つまり、部分の研究が進めば進むほど、全体(ホール)の研究がますます重要になってくるのではないか。従って、部分の研究が進めば進むほど、丸山ワクチンのようなホーリスティックな立場に立った薬品の効果が脚光をあびてくるのではないかと思います。そうした考え方にたって、私は活動を続けていきたいと考えています。

ところで、免疫学を含めて全体の作用機序に関する研究というのは、日のあたらない面があって、日本ではなかなか研究が進まないのではないか。そういう分野で僅かではありますが、なにかお助け出来るような仕事が出来ないのかということを考えています。また、部分の研究・治療と全体(いのち)のはざまにあって死と直接向き合っている患者の方々の考え方をなんとか世に発表することは出来ないのかということも考えています。私自身は、個人的関心ではありますが、丸山ワクチンは癌の予防にもっとも効果があるのではないかと考えていますが、そうした点を研究し、普及してくださる方がいらっしゃれば有難いと思っています。といったように色々なことを考えておりますので、どうぞご自由に要望を出していただければと思います。また、必ずしも癌に限らず、丸山ワクチンによる治療に関する研究であれば何らかのお手伝いをしてもよいのではないかと個人的には考えております。

ともかく私どものNPOの活動は自由にやっていきたいと考えておりますので、どうか積極的なご意見、ご要望をお寄せ頂ければと思います。こうした様々の方向に活動を広げていって、最後にまた丸山ワクチンに戻りたいというのが私どもの考え方でございます。
世の中には石にかじりついても3年という言葉がありますが、石にかじりついても5年、10年は頑張りたいと思いますので、どうか皆様の積極的なご協力を頂きたいと思います。

以上