講演会(ご案内・ご報告)

第5回講演会

プログラム1
『ご挨拶』
NPO「丸山ワクチンとがんを考える会」理事長
東京大学名誉教授:篠原 一


 どうも高いところから大変申しわけありません。ここへ上がれというものですから。簡単にごあいさつを申し上げます。
 私は、今ご紹介ありましたNPOの理事長をやっております。この「丸山ワクチンとがんを考える会」は、2005年、つまり3年前に発足をいたしまして、その事業の一環として講演会をやっており、その講演会がきょうでちょうど5回目になりました。
 丸山先生がお亡くなりになったのはたしか1992年の3月だったと思います。私事を申し上げて大変申しわけないのですが、たまたまそのとき私は白内障の手術で入院をしていたのですが、丸山先生がお亡くなりになったということで、電話が新聞社をふくめ方々からかかりまして病院の電話がパンクするという状態になったことを記憶しております。すごいなという感じを私は持ちました。それはちょうど手術の翌日のことだったと思います。
 そして退院をしてから丸山先生のご葬儀が護国寺でございました。
 私は病後でふらふらしていたせいもあるのですが、恐らく数千人の葬儀に参列する人が次から次へと続いておりまして、その足音が軍靴みたいな、ドサドサ、ドサという音がしたのを耳にして、頭がふらふらしていたせいもありますが、めまいをするような感じのしたことを覚えています。
 私も学者の片割れですけれども、私はどんなことしてもこうはならないだろうと思いました。それだけ丸山ワクチンで丸山先生にお世話になった人たちがたくさんおられたということで、そのときの患者の方々の中には、「丸山先生、ありがとうございました」といって泣かれるような方もいました。
 大体こういう薬は、また学者の業績でも、その先生がいなくなると世の中から消えてしまうものです。
 それはもちろん丸山先生がご健在のときよりは、露出度という点で問題になることが少なくなりましたので患者は減ってきておりますけれども、今でもたくさんの患者がこられ、きょうもたくさんお集まりいただいて本当に感謝をしております。
 丸山先生がお亡くなりになってから研究状況にも変貌がございました。
先ほど申しましたようにこのNPOができたのが2005年でございますが、丸山先生が亡くなられたのは1992年でございますから、その間にちょうど新しい世紀が始まりました。そしてそのころから新しい免疫学の革命というのが起きてきまして、その新しい免疫学と丸山ワクチンは非常に関係があるということが専門の人によって明らかにされてきました。
実は私なども友人といろいろな会合で会いますと、「おまえ、まだ丸山ワクチンやっているのか」というようなことを言われるのですが、まだやっているのではなくて、これからますます発展をしていくはずだと思ってやっているわけです。そのためには、学問的にもあるいは治療の普及でも何か努力をしなければいけないのではないかというふうに思いまして、先ほど申しました2005年にこのNPOを創立させていただいたわけでございます。
 したがって、この講演会も一つは基礎医学的なお話、もう一つは臨床的なお話ということを原則としてその2つのお話を専門の方からいただくという形で、やってまいりました。
本日も宮田先生からは基礎的なこと、江上先生からは臨床の、しかもご自分もがんをされておられて、しかも臨床をされておるという、そういうお話を聞けるものと思って非常に楽しみにしています。
 この間、第4回の講演会が1月にございまして、今9月でございますが、大体6カ月乃至9カ月に一回、こういう講演会を開かせていただいています。したがって、その間にはいろいろ進展がございました。
 皆様の資料の中にもお配りしてありますように中井久夫先生という方がおられまして、みなさんご存じだと思いますが、この方は精神医学の代表的な先生で、同時に詩人であり文人であり哲学者でありという、そういうご活躍をしている先生ですが、その方が『みすず』の3月号にエッセイを書かれました。今大きな出版社はたいがい自分のPRのための小冊子を毎月出していて、その中には内容的に非常におもしろいものがいっぱいあるのですけれども、その『みすず』の中で 「SSM、通称丸山ワクチンについての私見」という長いエッセイをお書きになったのです。
 これが非常に反響を呼びました。大体出版社が出している小冊子で重版になるなどということはないのだそうですけれども、この3月号だけ重版になったということです。実は私たちもそれを取り寄せまして、内々に配ってみんなで読んだのですが、きょうお話をうかがいますと、8月にこれは『臨床瑣談』という本になってみすず書房からもう出ているそうです。おそらくこの月刊『みすず』よりは新しく出版された中井先生の本をお読みになっていただくほうが正確でよろしいのではないかと思います。
 これは大変におもしろいもので、私など素人とは違って基礎医学の知識に裏付けられています。先生はウイルス学の専門家でもありますのでその点でもおもしろいのですが、例えば丸山先生はご存じのように皮膚科の先生でありまして、昔は皮膚科の先生がなぜがんの薬をつくるのかと批判されました。しかし中井先生に言わせれば、皮膚がんというのは目で見えると、いちいち変化が見える、薬を打ったときにどういうふうに変化するかということがこの目で見えるので、皮膚科の先生だからこういうがんの薬をつくることが出来たのだ、といっています。ワクチンを一日置きに打つというのもやっぱり直接観察してそれがいいと思ったからそう決められたわけで、顕微鏡、または内視鏡なんかを入れてもそういう観察はできないだろうというようなことを言っておられます。
 病理学的にもすごくおもしろくて、素人がこういうことをいうと不正確になりそうなのですけれども、例えばがんというのは自分が成長するために血液を補給しなければいけないんですね。そこでコラーゲンを呼び寄せて、その中で末梢血管をつくっていくという作業をするのですが、丸山ワクチンはそのコラーゲンで、がんを包みこんでしまうという役割を持っていまして、その点は木本先生が『キャンサー』という外国誌で証明しておられます。私たちには考えられないことですが、がんというのは元来そういうものでコラーゲンを自ら呼び寄せる性格があるらしい。丸山ワクチンはがんを叩くためかあるいは自分が宿主として保護するためかどうか知りませんけれども、ともかくそこまでコラーゲンを運ぶ。それで結局がんを包囲してしまうらしく人間の生理というのは複雑でダイナミックなものだということなどをいろいろ考えさせてくれました。
 専門的で私にはよくわからない面がありますが、色々なおもしろいことが書いてありますので、ぜひお読みになっていただきたいと思います。
出来れば中井先生をいつかここへ、出来れば次ぐらいにお呼びしたいなというふうに思っておりますので、ご期待をいただきたいと思っています。
 専門に関する話ばかりしているようですが、実は私たちは講演会のほかにいろんな仕事をしようと思っています。患者の皆さんが体験に基づいて発言したいことが、恐らく専門の先生方と違って治療を受ける側としてもあると思います。
そういうことで何か発言したいとか表現したいということがありましたら、ぜひ事務局の方に言っていただければ、そういうものをまとめて小冊子にして出してもいいんじゃないかということを内々で話し合っておりますので、ぜひご協力下さい。これは医者の専門家のことだと思わないで、どうかきょうお話を聞いた後、感想があったりあるいは自分の体験がございましたら、ぜひ事務局の方にお寄せいただきたいと思います。
 ちょっと長くなりましたが、以上でごあいさつとさせていただきます。(拍手)