講演会(ご案内・ご報告)

第14回講演会

プログラム1
『ご挨拶』
NPO「丸山ワクチンとがんを考える会」
理事長:江上  格


皆さん、ようこそいらっしゃいました。
 今ご紹介がありましたが、昨年、長らくNPO法人理事長をされていた篠原一の後任を預かりました江上でございます。 一言ご挨拶申し上げます。
 私は、昭和42年日本医科大学を卒業しまして、インターン終了後43年に日本医大の第一外科大学院に入学し、4年後の47年に卒業しました。 研究室は微生物免疫学教室で、臨床は第一外科、現在の消化器外科、教授定年退職しました。 この間、厚生労働省の科学研究費がん臨床事業を9年ほどしております。 現在、附属病院ワクチン療法研究施設の所長でございます。
 丸山ワクチンとのご縁は、昭和50年代にさかのぼりますけれども、当時、丸山ワクチンが社会問題化した時分に、一時教授の命でお手伝いしたことが経緯になります。
 免疫療法は、日本でのがん治療法として昨年ようやく厚生労働省が手術療法、化学療法、放射線療法に続く第4の治療法として位置づけ承認しました。 これまでながらく期待され続け、新しいがん免疫療法が次々華々しく登場したものの、期待されたほどの結果が得られない状態が続く中で、最近ヒトが生来持つがん逃避機構の制御に関する研究、開発から臨床応用が進み、発展し、新しい潮流となっています。
 近代免疫学の始まりは、1950年代、腫瘍抗原の存在が示唆され、オーストラリア、メルボルンのマックファーレン・バーネットにより免疫監視機構、免疫寛容を提唱したこととされます。
 免疫は、大きく分けて獲得免疫と自然免疫がありますが、今まで免疫と言えば獲得免疫というほど免疫学会のほうでは自然免疫は死語、あるいは無視と言われるほどに存在感のない状態が続いていました。 20世紀末、あるいは21世紀に入って、それまで満を持していたかのように、状況は一変しました。 自然免疫界から次々画期的な研究成果が発表されました。 その功績者にはノーベル賞が授与されました。 最も権威ある医学雑誌の一つ「サイエンス」(Science)では、2013年、ブレイクスルー・オブ・ザ・イヤー(Breakthrough of the year)にキャンサーイミュノセラピー(Cancer immunotherapy)、がん免疫療法が選出されました。 翌年の2014年には、これも権威ある「ネイチャー」(Nature)という雑誌で、同様にがんの免疫療法はがん研究のターニングポイントになるとしました。
 世界中で、がん免疫療法ががん免疫療法剤の新規臨床に直結するとして急速に関心が膨らみ、その期待感が高まる中で、昨年開催されましたASCO(米国臨床腫瘍学会)、この世界で最も権威のあるがん学会では、がん免疫療法のセッションに3,000人が集まったことを評し、あたかもエンシュージアム(enthusium)、熱狂であるという記事がウォールストリートジャーナル(Wall Street Journal)紙、医学雑誌でも新聞でもないのですが、世界で最も知名度の高い経済・金融紙、こういうところで報道されました。 「米国からヨーロッパでは、マスコミは大騒ぎが起こった。全然話題にならなかったのは日本だけだ。」そういう話を、京都大学名誉教授の本庶佑先生がされたんです。 御存じの方もおられるかと思いますけれども、本庶先生は25年ぐらい前に、今話題の免疫チェックポイント阻害剤におけるPD-1、PDL-1、それの生みの親とされています。
 さて、ここで、日常のがん診療に向けて、ちょっとお話ししたいと思いますけれども、がんが発見される、あるいは疑いが出ると、しかるべき病院に行って、検査して、確定診断がされた後、担当医から説明があります。 そこで、切り出されるのが、「早く手術したほうがいいね」です。 この言い方や話し方は変わっても、これは今も昔も変わらないでしょう。 現在でも、がん治療のうち、確実性、精度が高いのは手術で病巣を完全に取ることです。 取り残しをしない、局所再発させないことです。 これで70%が長期生存できます。 一時期、よりよい結果を目指して、広範囲、あるいは拡大手術というものを追求する向きもありましたけれども、期待した結果が得られなかったので、手術の適応、手術の範囲が標準化されました。
 手術術式の進歩の変遷では、歴史的とも言えるのが、25年ぐらい前、腹腔鏡下手術というのが導入されたことだと思います。 当初は胆石症から始まりましたが、胃がん、大腸がん、その後続々と手術は鏡視下というものに変わりました。 従来の開腹、切開してやる手術は例外的、あるいは時代後れの手術だと評され、過度の競争による弊害が懸念される面が見られます。
 また最近は、がんが検診で発見される例が増加していますので、早期がん、がんが小さいうちに発見される結果、口から、あるいはおしりのほうから、内視鏡を入れてやる内視鏡手術例が増加しています。 この手術では、がんは切除されても臓器は温存されますので、術後障害はありませんので体への負担は著しく低減されます。 手術は基本的には、外科医が手術野、手術する部分、そこを見ながら、考えて手を動かす作業である以上、医学というサイエンスに基づく職人技と、そしてそれを超えるアートの感性が求められます。 手術のできばえは医術者の技量、力量が影響することは否定できない側面があります。 がんの治療法は多様化、複雑化しているので理解が困難で、慎重な選択が迫られます。 最後は自らの判断、踏ん切りで決めることになります。
 今回の、講演会の2つの演題は、皆様に興味深いと感じられると思います。 どうぞ最後まで、ご視聴くださることお願い申し上げます。
 どうもありがとうございました。
(拍手)